腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術 ガストリックバイパス LRYGBP

歴史ある事実上の標準手術 治療効果が高く欠点は少なくゴールドスタンダード

 胃バイパス術は40年以上の歴史があり、その間よりよい方法を求めて少しずつ変更が加えられ現在に至っています。現在肥満手術は世界中で行われていますが、もっとも多く行われているのは米国です。その米国でもっとも多く行われてきた手術がこのル
ーワイ胃バイパス術です(最近スリーブ状胃切除術がバイパスを上回ったとの報告がありました)。ルーワイとはRoux Yと書きます。Roux(ルーと読みます)はスイス人の外科医で100年以上前に胃切除後の再建方法をY型にする優れた方法をを報告し、現在でも胃がんの手術での再建の標準は現在でもこのRoux-Y 法です。胃バイパス術でも最初はこのRouxタイプではありませんでしたがいろいろな合併症を軽減するため、このタイプへと落ち着きました。この術式は『一回に摂取できる食事の量を減らす』こと、摂取した食物中の『栄養吸収を減らすこと』の2つの作用の組み合わせで体重が減るしくみになっています。まず、胃上部に30ml程度の容量の小さな胃袋(胃嚢やパウチなどともいいます)を腹腔鏡下に作りま
す。この容量は実に胃全体の1/5に過ぎないほどのきわめて小さな胃袋です。次に食物を栄養吸収の要である小腸に誘導するためにこの『パウチ』と小腸を腹腔鏡下につなぎ合わせます。パウチにつなぎ合わせた食事だけが通るこの小腸の部分はRoux脚(日本ではY脚と呼ばれることが多い)と呼ばれ減量手術では100cm 以上とることがほとんどです。食物の通らなくなった『大きな胃袋(空置胃、残胃、remnant stomach)』から十二指腸、そして小腸(空腸)の始まりの部分50cmは胃液、胆汁、膵液、十二指腸液などの消化液のみの通り道(胆膵路biliopancreatic limb)へと変化します。食物の通るRoux脚と消化液の通る胆膵路をY型に腹腔鏡下で接続することでこのバイパス術は完成します。減量効果、併存疾患(糖尿病、高血圧、高脂血症、など)の改善率、手術に関連した短期・長期合併症の程度などのバランスが比較的良好です。以前は開腹手術で行われていましたが1994年Wittgroveが世界で初めて腹腔鏡下にの手術を成功させました。その後1990年
代後半からは傷の小さな腹腔鏡下に行われることが多くなってきています。病的肥満の患者さんは腹壁や腹腔内の脂肪がかなり多く、ただでさえ手術が容易でない環境にありますが、腹腔鏡下での胃や小腸の切離、そして消化管どうしをつなぎ合わせる(吻合)には非常に高度のテクニックを要しますが多くの先人の努力の結果、その技術を会得した内視鏡外科胃にとっては安全に行うことが可能となってきました。日本においては1982年に開腹手術で当時千葉大の川村功先生が始めて行いました。それから20年後の2002年笠間和典先生が始めて腹腔鏡下にこの手術を成功させました。日本においてはスリーブ状胃切除術では効果が不十分な患者さんは十二指腸空腸バイパスを加える(スリーブバイパス=笠間和典先生が開発)ことで胃バイパスと同等以上の効果が見込める報告があり胃
バイパスの施行件数はかなり減ってきました。しかし、効果と安全性のバランスに優れた術式であり今後も必要とされていくでしょう。現在我々が行っているガストリックバイパスの方法は世界で最も美しい腹腔鏡下バイパス手術をするといわれている日系米国人のKelvin D Higa の方法に習って行っています。(添付の写真:①世界で初めて腹腔鏡下胃バイパス術を成功させたアメリカのA.Wittgroveと。②世界で最も美しい腹腔鏡下胃バイパス術をするアメリカのKD.Higaと。③腹腔鏡下胃バイパス術を受けた患者さんの1年後の腹部のきずあと)
 
【腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(LRYGBP)の利点】
40年あまりの歴史があり、長期的な手術の効果、合併症が分かっています。胃バイパス術の後に開発された多くの新しい手術でも現在ではほとんど行われなくなったものもある中で、これだけ長期にわたって淘汰されることなく標準術式となっていることはやはり優れた術式といえるでしょう。まず、確実に体重を減らすことができること、そして大きなリバウンドをすることなく長期に体重を維持出来ること、長期的にみても適切な食事療法を行えば重大な栄養障害が来ないことが利点としてあげられます。胃バンディングのように体内に異物を埋め込むことは不要で、LSGやBPD/DS(スリーブバイパス)のように臓器の一部を切除して取り出すことが不要であることも利点といえるかもしれません。食事の通り道を変更するだけなので臓器の摘出はありません。ですから技術的困難性はあるものの理論的にはもとの状態に戻すことも可能です。実際患者さんは小さな胃袋によって少量の食事で満足し、栄養吸収の要である小腸は最小限のバイパスであるため栄養的な問題も高くはありません。胃バンディング術における頻回のバンドの調節は不要でありこれもある意味「メンテナンスフリー」の手術といえるかもしれません。現在では腹部を大きく切開することなく腹腔鏡下に小さな傷で施行可能になってきました。
 
【腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術特有のリスク・合併症】
副作用のない薬がないように『 合併症のない手術は存在しない 』のです。腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術も例外ではありません。手術に関連した合併症によって命を落とすことさえあります。その頻度は多くの報告により若干異なりますが概して手術総数の0.2- 0.5%程度と報告されています 。つまり500例の手術が行われた場合、何らかの理由で1−2人程度で不幸な結果になってしまう可能性があるということです。しかし、これは一般的な外科手術全般でもこれと同程度以上の割合であり決してルーワイ胃バイパス術で多いという訳ではありません。死因としてもっとも多いのは『 肺梗塞・肺塞栓 』というものでこれはバイパス術に特有なものではなく眼科や整形外科の手術でも起こりえます。次に多いのは『 縫合不全 』が挙げられています。胃や腸を縫い合わせたところが癒合せず胃腸の内容物がおなかの中の空間(腹腔内)に漏れ出てしまうことです。そうなると腹腔内に膿がたまり、その中の細菌が血液を介して全身に広がり敗血症という重篤な状態になることがあります。これは消化管の切離、吻合を伴う手術では起こる可能性がありますので胃バイパスに特有なことではありません。縫合不全がいったん起こると長期の入院と絶食が必要になります。保存的に治療が見込めない場合は再手術を行ってドレナージを行うこともあります。その他術後比較的早期に起こるものとしては縫い合わせたところから出血がおこる『 吻合部出血 』などがあります。術後しばらくして起こる可能性のある比較的重篤な合併症は『 腸閉塞・内ヘルニア 』です。これは腹腔内で小腸が捻れたり手術によって出来た腹腔内の小さな穴の中に小腸が入り込むことでときに小腸に血液が行かなくなり小腸が壊死に陥ってしまうもので出来るだけ早期の手術が必要です。また、胃嚢(パウチ)と小腸をつなぎ合わせた部位に潰瘍ができる『 吻合部潰瘍 』やパウチと小腸の『 吻合部の狭窄 ・閉塞』が起こる場合もあります。通常狭窄には胃カメラ下に特殊なバルーンで膨らませることにより良好な治療効果があります。その他急速に体重が減少することによって 胆石 が発生したり一過性の 脱毛 を経験することがあります。
 
【腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術の効果】
ほとんどのケースで術後半年で急速に体重が減少し術後1年までゆっくり体重の減少は続きます。術後1年から3年はほとんど横ばいですが若干のリバウンドはありますが多くの症例は長期に減少した体重を維持することが出来ます。バイパスでの体重減少は平均50Kg 程度で 超過体重減少率は75% です。つまり余分な体重の75%がこの手術によって減少することが期待できます。理想体重から60Kg オーバーしていた人は60x0.75=45(kg)の減量が見込めるということです(これはあくまでも平均なのでこれより多く減少する人と少ないひとがいます)。手術による体重減少に伴い、もし糖尿病が合併している患者さんでは高い確率で糖尿病が治癒します。多くの報告では 80% の患者さんにおいて術後2型糖尿病においてあらゆる治療から解放されます。耐糖能異常は術後早期に改善がみられ多くのケースで術後2ヶ月以内に糖尿病から開放されます。同様に高血圧は70%,睡眠時無呼吸の患者さんは95%以上が改善または治癒するといわれています。
Youtubeのビデオは私たちの施設で施行した腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術とバイパスを分かり安く解説したインターネット上のアニメーションです。


 

 


  ページトップへ             次へ