腹腔鏡下ループスリーブバイパス SADJB with LSG
スリーブバイパス手術を変更しシンプルにした肥満手術・糖尿病手術

 

胃がんの多い日本や韓国、その他の東アジア諸国においては、世界的に事実上の標準手術である「腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術」は胃カメラが容易にできなくなり胃がんの早期発見早期治療ができなくなるのではという懸念が指摘されていました。欧米諸国では胃がんそのものが著明に減少し、検診のスクリーニングで胃内視鏡検査をするということがほとんど無いためバイパス術後の空置胃に関してはほとんど議論にならなかったようです。そこで、胃カメラのできない空置胃を残さない工夫として「ルーワイ胃バイパス術」ではなく「スリーブ状胃切除術+十二指腸空腸バイパス術」がルーワイ胃バイパス術の代替術式として笠間和典先生(四谷メディカルキューブ)によって提唱されました。これが、他の章で触れた「スリーブバイパス」です。高度肥満に対する減量効果、2型糖尿病に対する効果も極めて高く非の打ち所がない術式と言えるでしょう。
 ただ、問題点もあります。手術そのものの難易度が極めて高いということです。この手術は大きく分けて5つのパートに分けることができます。即ち①腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を行う。②胃切離断端を針糸で埋没縫合し胃管の形状を整形する。③十二指腸を剥離し離断する。④空腸を切り離してつなぎ合わせる。⑤空腸同士をつなぎ合わせたことによって発生する腸間膜の隙間を縫い閉じる、ですね。②は必ずしも必要でないという意見もありますが合併症のないスリーブには必要と私たちは考えています。スリーブバイパスはこれら一連の操作を全くエラー無く完璧に行わなければなりません。腹腔鏡下にスリーブ状胃切除術を行うだけでも様々な技術的要求があるのに、それに引きつづく操作ひとつひとつがスリーブを作成するのと同等以上の繊細さが求められます。
 そのため、このスリーブバイパスをもっとシンプルなものにできないか、ということで、オリジナルのRoux Y型からループ型に変更したのがSADJB(Single Anasotomosis DuodenoJejunal Bypass:単吻合十二指腸空腸バイパス)です。これは消化管をつなぎ合わせる部位が1カ所で済むためかなり技術的ハードルが下がります。単に吻合部の数が半分になるというだけでなく、十二指腸と空腸、空腸と空腸の吻合は快適に縫える角度が違うのでポートの位置を最大公約数的な位置にする必要がありますが、1カ所に合わせるだけだとかなり楽です。また、内ヘルニアの可能性がある”危険な”腸間膜の隙間も発生しないため(厳密にはPetersen's spaceがありますがヘルニア門が大きく絞扼性腸閉塞のリスクは低いと考えられます)、それらを縫い閉じる手間も省くことができます。もし、オリジナルのRoux Y型と減量効果、糖尿病をコントロールする効果が同等以上で、手術に関連した合併症が少ないのであればこれはまたひとつの有用な術式となる可能性があります。世界の肥満減量外科のリーダーの一人、台湾のLee W-J教授がこの術式を提唱しその成績をOBESITY SURGYR誌でスリーブ状胃切除術、胃バイパス術との比較を報告しています(
OBES SURG (2014) 24:109–113
)が肥満・糖尿病に対する治療効果、安全性ともに優れているようです。
 私たちもヘリコバクター・ビロリ陽生で胃がんのリスクのある糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群を合併したBMI
46の症例でスリーブ単独では十分な効果が期待できない症例でこの手術を行いました。術後経過は良好で特に合併症なく退院、術後半年で体重120.2kgから74.7kg(青い棒グラフ) ,BMI 46から29,超過体重減少率(%EWL25)82.6%(赤い棒グラフ)で減量効果は極めて良好であるばかりでなく、血糖値、血圧、コレステロール値は正常となり糖尿病、高血圧、高脂血症の治療目的の全ての内服薬が不要となりました。

 腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は比較的シンプルで技術的ハードルも若干低く保険適応であるというメリットがある一方で、糖尿病をコントロールする力がバイパスに比較して弱いということ、BMI50を肥えるSuper Morbid Obesity(超高度肥満)ではスリーブ単独では体重をコントロールするパワーが弱くリバウンドもしやすいという弱点を持っていることが明らかになってきました。ですから、比較的低体重で糖尿病を合併しやすい我が国においては、肥満に関連する増え続ける莫大な国民医療費を軽減するという観点からもバイパス系の手術も発展させていく必要があると思っています。
 YouTubeのリンクは私たちが行った十二指腸と空腸を針糸で縫い合わせるこの手術のハイライト部分のシーンのビデオです。Lee W-J教授のオリジナルは自動縫合器を用いていますが、ここでは針と糸だけで2つの腸管をつなぎ合わせています。(注:腹腔鏡手術映像ですので苦手な方は注意されてください)

 
 

 


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