腹腔鏡下胆膵路変更術・十二指腸バイパス LBPD/DS

最も減量効果・抗糖尿病効果が高いが難易度も高い究極の手術

イタリアのジェノア大学の スコピナーロ教授 は1970年代半ばに Biliopancreatic diversion(BPD) という術式を開発しました。これは胃の部分切除と小腸の大半をバイパスするもので栄養が吸収される小腸は50cm程度と極端に短くしました。 減量効果は強く確実で、しかもリバウンドが極めて少ない といわれています。 糖尿病などの併存疾患を改善させ
る作用も最も強いといわれています。ただビタミンやミネラルの吸収の低下は避けられず、長期のサプリメントの摂取は必須となります。Scopinaro手術はその後Hessらによって変更が加えられDuodenal Switch(DS 十二指腸変更術)という術式が生まれました。胃を垂直に切除し十二指腸と小腸をバイパスするようにしたものです。栄養吸収が可能な小腸は75cmから100cmと若干BPDより長めに取っています。DSは幽門を温存するために食事が一気に小腸に流入してしまうことがないため胃バイパスやスコピナーロ手術に比較してダンピング症候群が少ないといわれています。また、十二指腸は小腸より胃酸に強いため吻合部潰瘍の頻度が少ないといわれています。DBD/DSはその強力な減量効果からルーワイ胃バイパス術では減量効果が不十分と考えられる超肥満の症例でいい適応とされてきました。BMIが50を超えるような超肥満のケースではただでさえ手術が困難である上に、この手術はかなり煩雑で技術的要求度が高いため手術に関連した合併症はバンドやバ
イパスに比較して高くなります。そのため 腹腔鏡下にBPD/DSを初めて行ったMichel Gangerは手術のリスクを軽減するためにまず初めにBPD/DSの最初のパートである胃を垂直に切除する手術を行い、ある程度減量が得られて手術のリスクが低下したときにBPD/DSの後半のパートである十二指腸変更(十二指腸バイパス)を行う2期的手術を提唱しました。そうすることによって一期的に手術をするより手術の合併症が激減しました。しかし、この手術の最初のパートである垂直に胃切除術を行うことは、上述のLSG,Sleeve Gastrectomyそのものです。そうです、実はBPD/DSの最初のパートだけでかなりのケースで十二指腸バイパスが不要なほどLSGの効果が高かったのでLSGという”独立した”術式が生まれたのです。これは嬉しい誤算でした。ただ、LSGだけでは健康を維持することができるだけの減量効果が出ない症例ももちろんありますのでLSG後目標体重まで減量出来なかったケースは十二指腸変更術を施行する必要があります。(写真はスコピナーロ教授と私です)
 
【腹腔鏡下十二指腸変更術DSの利点】
上述のようにこの手術の利点は強力な減量効果であるといえます。しかも糖尿病等を治癒・改善させる力も減量手術の中でもっとも強力です。バンドのように体内に異物を埋め込む必要もなく、バンドの調整を頻繁に行うような「メンテナンス」は不要です。また、ルーワイ胃バイパス術と比較した場合の利点としては通常の胃カメラで観察が困難になる空置胃(bypassed stomach)がなくなるので、胃がんの発生が比較的多い日本などでは術後の胃の観察は容易であり胃がんの発見が遅れてしまうという懸念はバイパス術に比較して低くなると思われます。
【BPD/DSに特有なリスク・合併症】
腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術と同様に消化管の切離や吻合を伴うためにバイパスの項で述べた 縫合不全 や吻合部出血等の消化管手術の一般的な短期合併症の可能性はあります。しかも、この手術は他の減量手術で対処が困難なほどの高度肥満の症例を扱うことが多いためどうしても合併症の頻度が高くなることが予想されます。術後の合併症率がバンドとスリーブが5%前後、胃バイパスが10%前後であることに対しBPD/DSでは40%程度であると報告されています。 手術関連死亡率 もバンドの0.2%,バイパスの0.5%に対し BPD/DSでは1%程度 と報告されています。小腸からの栄養吸収を強力に低下させますので長期的には栄養障害のリスクが他の術式に比べて高いのでビタミン、ミネラル、微量元素などのサプリメントの障害にわたる摂取は必須になります。
【BPD/DSの効果】
繰り返しになりますが減量効果は最も強力です。超過体重減少率、つまり余分な体重をどれだけ減少させる力があるかというと概して バンドが45% スリーブが60% バイパスが75% であるのに対し BPD/DSでは80%減少 させることができると報告されています。また2型糖尿病を治癒または改善させる力も最も強力であると報告されています。

  ページトップへ             次へ