腹腔鏡下スリーブ状胃切除術 を成功させる方法 針糸の縫合について

30cm に及ぶステープルラインを針糸で縫うことには理由がある!

腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は比較的シンプルな手術方法であるにも関わらず、それまでゴールドスタンダードと言われてきた腹腔鏡下胃バイパス術に匹敵する減量効果をもたらす力があることが徐々に明らかになり、世界中でその施行件数が著明に増加しています。我が国においては肥満減量手術の実に7割がスリーブ状胃切除術となっています。
胃を縦に自動縫合器で切るだけの非常にシンプルな手術ですが、実際は安全域が狭く、『いい結果を出すためには多くのTipsがあります。『いい結果』というのは大きくわけて2つの意味があります。ひとつは、術後合併症が少ないこと(スリーブの合併症で多いのは、縫合不全、狭窄(器質的・機能的)、逆流性食道炎)、そしてもう一つは減量効果に優れていること、です。スリーブ状胃切除術が提唱されて10年余りが経過し、徐々にその効果と限界、どのような合併症が出現し、どのように回避すればいいのか、そして合併症が起こった場合はどのように対処するのか、などの知見が蓄積されてきています。
 実は、術後合併症が少ないことと減量効果に優れるための手術のコツは共通のことであると僕は思っています。一言で言えば『きれいな胃管を作ることにつきる』ということですね。太くなったり細くなったりすることがない、完璧に均一な径のストレート胃管、自動縫合器で胃を切離する際にステイプルラインが胃の前にいったり後ろに行ったりする波打ったステイプルラインにならないように完全な直線のステイプルライン、つまり、捻れのない胃管を作るということが重要だと考えています。そうでなければ縫合不全や狭窄、そして体重減少不十分な結果といったことが起こるリスクが高くなります。
 胃を切る距離はほとんどの症例で30cm程度ですが、自動縫合器で1回で切離できる距離は5cm程度であるので6回は切離する必要があります。自動縫合器だけでの切離ではどんなに繊細に気を使った操作をしても、均一な径で、減量効果の高い細めの胃管を作成しようとしても理想の形にならない場合があります。そのため、自動縫合器で胃を切離したあとに胃管(スリーブ)が完璧な形になるように、針と糸を使ったマニュアル縫合を用いて、自動縫合器で作成した荒削りの胃管を理想的な形に形成していくことがよりよい結果を出すためには必須であると思っています。それが功を奏しているかどうかわかりませんが実際、これまで(幸いにも)1例の縫合不全や胃管狭窄にも遭遇していません。
YouTubeのリンクは私たちが行った腹腔鏡下スリーブ状胃切除術で自動縫合器で切離した胃の30cmに及ぶ断端を針と糸で縫い合わせて補強しているところです。意識して、胃管が適切な太さになるように、完璧なストレートになるように形成しています。
ビデオは時間の関係で2倍速にしていますが、カットはしておりません。
(注:このビデオは手術画像を含みますので苦手な方はご遠慮ください。)


 


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