腹腔鏡手術と肥満減量手術との関係!?

腹腔鏡手術なしでは肥満手術は語れない。

腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)や内視鏡手術(ないし
きょうしゅじゅつ)という言葉を聞いたことがあるかと思います。内視鏡は体の内部を観察することのできる小型のビデオカメラのことを指します。胃カメラや大腸カメラのように主に観察や診断を目的とする内視鏡が一般にはよく知られています。一方で、外科医の目の代わりとして体内を観察しながら手術を行うことに主に使用される『腹腔鏡』があります。腹腔(ふくくう)というのはお腹の中の空間のことをいいます。胃や腸、肝臓などの臓器はこの腹腔という体内にある空間にありますのでそれらの臓器の手術には腹腔鏡が使われます。一方『肺』などは胸の中の空間である『胸腔(きょうくう)』にありますので『胸腔鏡』が手術に使用されます。ちなみに心臓は胸にありますが空間はなく縦隔という地中に埋没していますので胸腔鏡で全貌を観察することはできません。実は腹腔鏡も胸腔鏡も同じ器材なのですが観察する場所が違うだけで呼び方が異なっているだけです。

 

腹腔鏡の特徴

腹部手術をするためには腹部の臓器が収められている空間である『腹腔』に至る必要があります。腹腔は閉じた空間なのでそこに至るにはどうしても腹部を『切開』する必要があります。伝統的な開腹手術では約20cmの大きな切開をおいて手術を行っておりました。内視鏡手術では5mmから1cmの切開でカメラを入れて腹腔内が観察出来ます。切開の大きさが劇的に小さくなりますので『痛みが少ない』『傷が小さい』という特徴があります。さらに、最近では画質の進化が著しく肉眼をはるかに凌駕する高画質で観察できます。最近では4Kのハイヴィジョンの腹腔鏡もありさらに高画質での手術が可能となってきました。また、内視鏡手術での欠点とされてきた立体感の欠如という問題に対しては3D腹腔鏡が開発され臨床の現場でも活躍するようになってきました。3D腹腔鏡は私たちの日常生活で両眼視しているのと同じように立体感が感じられるため直感的に手術操作が可能でありさらなる手術の質の向上、安全性の向上が期待されます。当施設でも3D 腹腔鏡の最新器機を導入する予定です。内視鏡の利点は傷が小さく痛みが少ないことと考えられて来ましたが、近年では『よく見えることによる精緻な手術』が可能であることのメリットが大きいと考えられています。正確な手術ができることにより出血量は少なく合併症の軽減にも寄与します。

肥満手術と腹腔鏡手術の関係

 1950年代に始まった肥満手術は開腹手術でした。高度肥満の患者さんは『皮下脂肪が多く厚い』腹壁と『大量の内臓脂肪と脂肪肝で腫大した肝臓』による狭い腹腔という特徴があり、手術はリスクが高く、合併症も決して低いとは言えませんでした。しかし、1990年代半ば、腹腔鏡による胃バイパス術がアメリカで開発されました。それ以降、急激にアメリカのみならず世界中で肥満手術が増加しているのは腹腔鏡手術の発展によるものだと思われます。通常の体型だと開腹手術でも腹腔鏡と同等の手術が可能ですが、高度肥満の患者さんでは上述のように開腹手術ではよく見えない、操作が困難であっても腹腔鏡では可能になります。さまざまな腹腔鏡手術を行ってきましたが、肥満手術ほど腹腔鏡の恩恵が大きく得られる手術を僕は知りません。確かに腹腔鏡下肥満手術の技術的困難性は高いですが、肥満外科手術がもたらす恩恵は大きいので我々外科医はその困難性をどうしても克服して安全で質の
高い手術を提供することが求められます。右の写真は胃がん手術を腹腔鏡下に行ったものです。胃を全部切除する『腹腔鏡下胃全摘術』を行いましたが大きな傷はありません。胃がん手術の技術は肥満手術とかなり類似しています。私たちの病院で行って来た多くの腹腔鏡下胃がん手術のノウハウが肥満手術に生かされています。
Youtubeの動画は私たちの病院で行った3D腹腔鏡による胃がん手術のワンシーンです。手術画像ですので苦手な方は注意されてください。

 


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