バイパス効果・・術後数日で血糖値が正常化する!

Bypass effect この不可思議な現象、体内でいったい何がおこっているのか?!

メタボリック手術(Metabolic Surgery)がいかに急速に効果を発揮するかを示すために今回は腹腔鏡下スリーブ状胃切除+十二指腸空腸バイパスを行った症例を提示します。10年以上にわたって糖尿病治療を続けているのですが、減量が上手くいかず、結果的に高血糖、高血圧、脂質異常などが持続しています。網膜症、腎症など糖尿病関連の合併症も出現しかかっておりました。術前の胃カメラでヘリコバクター・ピロリ菌が胃に感染していることが分かりましたので将来的な胃癌のリスクがあると判断し、胃カメラが困難になる胃バイパス術は行わない方針としました。
ABCD score(DSS;Diabetes Surgery Score)を計算すると10点満点中5点と低く、スリーブ状胃切除のみでは血糖を十分コントロールするだけのパワーが足りない可能性があると考えられました。そこで、ご本人と相談して最終的には腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の後
に十二指腸空腸バイパスを付加することとしました。血糖値と必要とされたインスリン量の経時的変化を示した一番上の図で示すように入院時には36単位のインスリンを使用していました。そこで当院の糖尿病センターの専門の医師に入院中の血糖コントロールを依頼しました。手術までの1週間は1日1000Kcalのカロリー制限(や運動療法もあり徐々にインスリンを減らしていきましたが血糖値は若干高く推移していました。手術日や術後2日目までは点滴しか入っていませんが比較的高血糖ですね。しかし 術後3日目に食事を再開した後から急速に血糖値が改善して7年以上やめることができなかったインスリンが術後たった3日でオフにすることができました。通常、食事を摂ったら血糖値が上昇するはずですが、バイパスの術後はしばしばこのような現象をみとめます。手術を行った外科医が無理やりインスリンをやめる判断をしたのではなく糖尿病専門の内科医師のグループが患者さんの状態をみて客観的に判断したということが重要です。このように術後数日以内にインスリンが不要になる効果は20年以上前から知られていて1995年のAnnals of SurgeryにPorie らの論文が掲載されていま
す。そのグラフ(最後の英文の論文)はまさに今回の経過と酷似しています。この急速な血糖の正常化のメカニズムはまだ十分には明らかにされておりませんが肥満外科医の中ではこの現象はいまや当たり前のことととらえられています。しかも、一過性の効果ではなくこの効果は多くの場合長期間にわたって維持されます。もちろん中には効果が弱かったり再度血糖をコントロールする薬が再開する場合もあることが知られており外科治療が全ての症例に完全に効果的であるということは言えません。ただこのような『失敗例』は多くないのも事実です。どのような患者さんにどのようなタイミングでどのような外科的介入を行った方がいい結果がでるのか?ということを世界中の研究者がいまも追い求めています。
 胃または十二指腸と小腸(空腸または回腸)をバイパスすることによって得られる急速で強力な抗糖尿病効果はByp ass Effect(バイパス効果)と呼ばれています。様々な消化管ホルモン、神経、腸内細菌
叢、胆汁酸など多くの因子がその現象発現に関与しているようですが、その詳細な仕組みはまだ解明されておりませんが、その日がくるまでそう時間はかからないと思っています。

これまでも何人もの患者さんでインスリンや様々な内服薬が不要になった症例を診てきました。私たち外科医の役割はメカニズムを探究する事も重要ですが、それよりもむしろ、効果的な手術をいかに安全に行うことができるかを探究することにあると考えています。
 

 


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